米大統領選2024 - 注目される印僑たち - インド系女性の対決?!

23/01/2024

インド

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今回は2024年米大統領選で話題となっている印僑の候補者達についてお話ししたいと思います。


本稿の関連動画を以下にアップしています。良ければご参照下さい。

https://youtu.be/0nSUNq5yonU

印僑とは中国系移民を華僑と呼ぶのに対応した呼称です。インド国籍を保持している国外居住者とインド国籍を持たないインド系移民及びその子孫の総称で全世界に3210万人います。母国インドの人口が14億人ですから海外在住のインド人の人数も自然と多くなりますね。印僑の人口が最も多い国が米国で412万人です。ちなみに日本にいる印僑は3万人です。

さて現在(2024年1月時点)米大統領選の予備選が始まりつつあります。

米国の大統領選挙は世界が注目する4年に1回のドラマですが、今回はインド系女性の対決になる可能性が急浮上しています。


共和党のニッキー・ヘイリーは当初泡沫候補視されていたのですが共和党予備選候補者による公開討論会で注目を集め、秋口に入ってデサンティスフロリダ州知事を追い抜いて2位に急浮上しました。トランプ氏と距離を置く共和党支持層はニッキー・ヘイリーに集まろうとしています。

まだ共和党予備選はトランプ氏が圧倒的に有利な状況ですが現在多くの罪状で刑事訴追を受けている身ですからこれから不測の事態が起きないとも限りません。

民主党のバイデン氏は現職ですので通常は予備選はありませんが、問題は彼の年齢と健康状態です。2022年には会議で交通事故死した議員の名前を呼んで探す場面がありました。死亡した事実を忘れていたと見られています。

最近もテーラー・スウィフトとブリトニー・スピアーズを間違えました。

記者会見の回数もめっきり減ってしまい外遊も副大統領のカマラ・ハリスに代行させる機会が増えています。国連気象変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)首脳級会議やイスラエル・ハマス軍事衝突停止を巡るアラブ各国首脳との協議も全てハリスに丸投げする始末です。

カマラ・ハリスはこれまで対応が極めて難しい移民問題を担当して不人気になっていたのですが、最近は外遊を任されて水を得た魚の様に生き生きしています。

米国では大統領が職務遂行不能の場合には副大統領が大統領職を代行し、大統領が死亡、辞任、または免職となった場合には副大統領が大統領となると定められているので、選挙戦の途中でバイデン大統領の健康状態が悪化した場合カマラ・ハリスが民主党の大統領候補となる可能性があります。

このように次の米大統領選がインド系女性の対決となる可能性が出てきたのです。

まずは共和党のダークホースとして最近脚光を浴びている前述のニッキー・ヘイリーについて見てみましょう。ニッキー・ヘイリーの両親はインド・パンジャブ州アムリトサル出身のシーク教徒です。ちなみにアムリトサルはシーク教の総本山である黄金寺院があるシーク教の聖地です。

黄金寺院

以前の投稿"シーク教指導者殺害事件 - カナダとインドの対立の背景 -"でお話しした通り、15世紀末のシーク教成立時から裕福で教育水準の高い層の帰依が多かった事から、シーク教徒には社会的に活躍する人材が多いのですがニッキー・ヘイリーの両親も正にそうでした。

彼女の父親のアジット・シン・ランダワは1950年代にパンジャブ農業大学の助教授だったのですが、ブリティッシュコロンビア大学から奨学金を受けて1964年に妻のラジ・カウル・ランダワと共にカナダに移住しました。アジットは1969年に博士号を取得し米国サウスカロライナ州のヴォーヒーズ大学に生物学教授の職を得て家族でサウスカロライナに移住しました。

ヴォーヒーズ大学

彼女の母親ラジ・カウル・ランダワはデリー大学で法学の学位を取得しており、その後教育学の修士号を取得してサウスカロライナの公立学校で7年間教鞭を執っていたのですが、1976 年に世界中の多くの国からのセレクションを販売するユニークなギフトブティックとしてExotica International、Inc.を設立し、その後アパレル部門を加えて数百万ドル規模のビジネスに成長させました。

エキゾチカインターナショナル(2008年の閉店セール)

以前の投稿"世界3大商人(華僑・印僑・ユダヤ人)とのビジネスは大変だけど面白い"でもお話しした通り、印僑は華僑・ユダヤ人と並んで世界3大商人と言われていますから"流石の商才"と言うところですね。

ニッキー・ヘイリー(旧姓ランダワ)は1972年にこの両親の元に生まれました。なので彼女の出生地はサウスカロライナです。インド人移民の子供って言うと貧乏な家庭に育ったイメージですが、実際は裕福なインテリの家庭ですね。

ニッキーと両親、兄、姉、弟

ちなみにニッキーというのは彼女のミドルネームでパンジャブ語で「小さなもの」という意味です。なので通常の英米人の名前のニッキーとは綴りが違っています。彼女の家族が住んでいたサウスカロライナ州バンバーグはキリスト教福音派の白人が多い田舎町で彼等ランダワ一家は初めてのシーク教徒の家族でした。

ニッキーは小学校の休み時間に人種でチーム分けをしようとする子供に「黒か白」を選べと言われて「私はどちらでもない。茶色よ!」と抵抗したそうです。以前の投稿"インド人の特徴"でも触れたのですが北インドのインド・アーリア系には白人っぽい人が多いのです。彼女の両親はパンジャブ州出身だからインド・アーリア系です。ちなみに後述するカマラ・ハリスのお母さんはタミルナドゥ州チェンナイ出身なので南インドのタミル系です。

ニッキーは1994年に地元サウスカロライナ州のクレムソン大学を卒業して一旦は一般企業に就職するのですが、その後家業のExotica International、Inc.にCFOとして入社します。

また1996年にはサウスカロライナ州陸軍州兵士官であるマイケル・ヘイリーと結婚し夫の姓を名乗るようになります。

彼女は1997年に夫の宗教である統一メソジスト教会に改宗しています。統一メソジスト教会はキリスト教福音派の一つでトランプ氏の支持母体です。

2004年に彼女はサウスカロライナ州議会下院議員選挙に共和党から出馬して当選します。更に2010年にはサウスカロライナ州知事選に出馬して当選しました。サウスカロライナ州初の女性かつ非白人の知事でした。

サウスカロライナ州知事当選

2014年に再選され2期目に入って間もない2015年6月17日にチャールストン教会銃乱射事件が発生します。21歳の白人の若者が米国サウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で銃を乱射、聖書勉強会の為に教会にいた教会員のうち9人が死亡し1人が負傷しました。

実行犯が犯行当時に車のナンバープレートに南部連合の旗をつけていた事からヘイリーは州議会議事堂に掲げられていた南部連合旗を撤去する決定を行います。南部州の州議会議事堂から南部連合旗を撤去する決定は相当にセンシティブなものですが、彼女の"結束の呼びかけ"は全米で大きく報道され多くの称賛を受けました。

2016年の大統領選予備選挙ではマルコ・ルビオとテッド・クルーズを支持しトランプ氏には批判的な立場だったのですが、大統領選挙に勝利したトランプ氏の指名を受けて国連大使に就任して知事を辞任します。

トランプ政権の閣僚級ポストは"身内の白人男性ばかり"だったので共和党側から"バランス人事"の働きかけがあったのかもしれません。ヘイリーの後任知事となるヘンリー・マクマスター副知事がトランプ支持者だったからだという推測もあります。国連大使就任はこれまで外交経験の全く無かったヘイリーにとって絶好の学習機会となりました。

彼女は2018年末に国連大使を辞任します。彼女が辞任を発表したのはワシントンの反汚職監視団体が彼女を告発した翌日でした。告発の内容は彼女がサウスカロライナ州の企業関係者からの招待で豪華プライベートジェットの旅行に7回行ったというものでした。ヘイリーは「これらは個人的な友人からのプレゼントであり収賄には当たらない」と主張しました。実際この案件で彼女が検察の訴追を受ける事はありませんでした。また告発した反汚職団体も「告発が彼女の大使辞任と関連があると信じる理由は無い」とのコメントを発表しました。

その後は雌伏の時を過ごし2023年2月15日に大統領立候補を表明、トランプ氏への挑戦を表明した最初の立候補者となりました。

満を持してと言いたいところですが2021年時点では「トランプ前大統領が再出馬を決意した場合は2024年の大統領選への立候補はしない。」と言っていたので微妙です。トランプ氏は再出馬しないと思っていたのかもしれませんね。

ヘイリーは2023年中に行われた4回の共和党大統領候補討論会で高い評価を得ました。その結果デサンティスフロリダ州知事を追い抜いてトランプ氏に次ぐ支持率2位となったのです。デサンティスは「賢いトランプ」と言われています。そういう人物なのでトランプ氏と距離を置く共和党支持層からの支持は得られ難いんですね。現時点では反トランプの共和党支持層がヘイリーに集結する流れになっているようです。

トランプ氏は当初予備選のライバルとしてデサンティス氏を非難してもヘイリーへの個人攻撃は控え目でした。自分が共和党の指名を獲得したら、反トランプの共和党支持層を出来るだけ取り込む為にヘイリーを副大統領候補に起用するという思惑があったようです。ところが最近はヘイリーの台頭を警戒して徐々に批判を強めています。

続いてもう一方の民主党のインド系女性カマラ・ハリスについてお話しします。ハリスの父親のドナルド・J・ハリスはアフリカ系とアイルランド系の混血のジャマイカ人移民です。

カリフォルニア大学バークレー校で経済学を修学する為に1961年に米国に渡り、幾つかの大学で教鞭を執った後にスタンフォード大学の教授となり、現在は同大学の名誉教授です。カリフォルニア大学バークレー校在学中に栄養学と内分泌学を学ぶ大学院生だったインド・チェンナイ出身のシャマラ・ゴパランと出会い結婚します。この二人の間に1964年に生まれたのがカマラ・ハリスです。アフリカ系・アイルランド系・インドタミル系の混血ですね。ヘイリーもハリスも裕福なインテリの家庭で育ったと言うのが共通点ですね。

ちなみにカマラというのはヒンズー教の女神ラクシュミの別名でサンスクリット語の「蓮の女性」を意味するカマラーに由来するのだそうです。彼女の3歳下の妹のミドルネームはラクシュミです。

ハリスが7歳の時に両親が離婚しその後は妹とともに母親に育てられました。子供の頃はインド・チェンナイの母親の実家を頻繁に訪れていたそうです。彼女の母方の祖父はインドの外交官でした。


ハリスが12歳の時に母親がモントリオールユダヤ総合病院で乳癌の研究をしながらマギル大学で教鞭を執る事となった為モントリオールに移住します。ハリスは高校卒業後にワシントンD.C.のハワード大学に入学して政治学と経済学を専攻し、その後カリフォルニア大学ヘイスティングス・ロー・スクールで法学博士号を取得します。1990年にカリフォルニア州の法曹資格を取得して検事として働き始め2010年に民主党からカリフォルニア州司法長官に立候補して当選します。

2016年にはカリフォルニア州選出上院議員に立候補して当選し2020年の大統領選でバイデン氏の副大統領候補となって当選します。


当初は民主党予備選に大統領候補として立候補しており討論会で自分が小学生の時に、黒人が多く住む地域の子供を白人の多い地域の小学校にバスで通学させる制度の対象になっていた事に触れ、バイデン氏が過去にこうしたバス通学制度に反対していたなどとして批判しました。この時の経緯からバイデン氏との間に依然わだかまりが残っているのではないかと懸念する声もあります。

バイデンがハリスを副大統領候補に指名したのは、人種差別抗議運動のブラック・ライヴズ・マター(BLM)の高まりに配慮した人選と言われています。

討論会のわだかまりのせいかバイデン氏はハリスを対応が極めて難しい移民問題担当に指名します。そのおかげでハリスの人気は下がる一方でした。2020年に当選した時からバイデン氏の年齢の関係で2024年には副大統領のカマラ・ハリスが大統領に立候補するのではないかとも言われていたのですが、バイデン氏がハリスの人気を盛り上げようとした様子はあまり見られません。

ところが前述の様にここに来て体力の衰えが隠せず外交の舞台で副大統領のハリスに代役を頼まざるを得なくなったようです。ハリスにとってはマスコミへの露出が増えると同時に外交経験を積めるという一石二鳥の機会となりました。

ちなみにハリスはバークレーに住んでいた子供時代にプロテスタントのバプテスト教会の聖歌隊で歌っていたと言う事ですが、同時期にヒンズー教の寺院にも通っていたそうです。

バークレーのヒンズー寺院

2014年にはユダヤ系の弁護士ダグラス・エムオフ氏と結婚したのですがその後もハリス姓を名乗っています。世界3大商人の印僑とユダヤ人の夫婦ですから最強ですね。

ちなみにフェイスブックのザッカーバーグはユダヤ人で奥さんは華僑ですから同じような最強夫婦です。

さて米大統領選にはもう一人インド系の候補者がいます。"トランプ2.0"と言われて話題の共和党のビベック・ラマスワミです。

ヘイリーに引き離されて撤退してしまいましたが、ラマスワミについても少し触れたいと思います。ラマスワミはインド・ケララ州からの移民の両親の元1985年オハイオ州シンシナティに生まれました。父親はGEのエンジニアで母親は精神科医でした。

ラマスワミと両親

ハーバード大学卒業後イェール大学ロースクールに進学するのですが在学中に既に金融・バイオテック・製薬関係の事業を手掛け、卒業後の2014年バイオテック企業であるロイバントサイエンシズを創業します。創業からわずか3年後には孫正義氏率いるソフトバンク・ビジョン・ファンドから11億ドルもの資金調達に成功した事で話題となりました。フォーブスによると個人資産は9.5億ドルという事です。

今回の大統領選で共和党の候補者となる可能性は無くなりましたが、トランプ氏が副大統領候補に指名する可能性が取り沙汰されています。その場合反トランプの無党派層の票が一気に民主党に流れる危険性があるのでどうなるか判りませんが。

ちなみにラマスワミはヒンズー教徒でベジタリアンだそうです。英国のスナク首相もヒンズー教徒ですから気が合うかもしれませんね。

さて今回の、2024年米大統領選で話題となっている印僑の候補者達についてのお話はここまでです。楽しんで頂けたでしょうか。今日の世界ではインドのプレゼンスがどんどん大きくなっています。同時に印僑と呼ばれる人々のプレゼンスも大きくなっていると思います。これからの世界はインド及び印僑にリードされる事になるかもしれませんね。世界で存在感を増しているインド本国のモディ首相については機会を改めてお話ししたいと思います。それではまた。

本稿の関連動画を以下にアップしています。良ければご参照下さい。

https://youtu.be/0nSUNq5yonU

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ドイツ、インド、シンガポール、フィリピン、ロシアに、計17年駐在していました。今は引退生活を楽しんでいます。

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