完璧な欧州人 - 欧州エスニックジョーク - The Perfect European should be...

07/07/2023

その他

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今回は、欧州の国々を風刺したエスニックジョークについてお話ししたいと思います。エスニックジョークは"ある民族の民族性もしくはある国の国民性を端的に表す様な話によって笑いを誘うジョーク"と定義されます。

本稿の関連動画を以下にアップしています。良ければご参照下さい。

https://youtu.be/I0X4eapagis


例として良く挙げられるのは"タイタニックジョーク"です。沈没しかけたタイタニック号に乗り合わせる様々な国の人たちに、海に飛び込むよう船長が説得を行います。

米国人に「飛び込めばあなたは英雄です」

英国人に「飛び込めばあなたは紳士です」

ドイツ人に「飛び込むのがこの船の規則となっています」

イタリア人に「先程物凄い美人が飛び込みましたよ」

フランス人に「飛び込まないで下さい」

ロシア人に「海にウォッカのビンが流れています」

日本人に「皆さん飛び込んでますよ」

といった調子です。

以前の投稿"インド人の特徴 - インドよもやま話#2 -"でお話しした"天国と地獄"というパターンもあります。

この世の天国とは「日本女性を妻に娶り英国風の家に住み中華料理を食べながら米国人の給料を貰う」この世の地獄とは「米国女を妻に持ち日本のウサギ小屋に住み英国料理を食べながら中国人の給料を貰う」

もう一つのバージョンは

この世の天国とは「コックはフランス人、警官は英国人、技師はドイツ人、銀行家はスイス人、恋人はイタリア人」この世の地獄とは「コックは英国人、警官はドイツ人、技師はフランス人、銀行家はイタリア人、恋人はスイス人」

二つ目のバージョンの特徴は登場するのが全て欧州人である事です。

この欧州のみのパターンを発展させたのが英国の漫画家ジョン・N・ヒューズ・ウィルソン(John N. Hughes-Wilson)が制作した"The Perfect NATO Member Should Be..."と"The Perfect European Should Be..."です。不朽のステレオタイプなイメージと穏やかなユーモアで漫画は観光客に人気のギフトカードになりました。

ヒューズ・ウィルソンが最初に制作した"The Perfect NATO Member Should Be..."は、グリーティングカードに仕立てられブリュッセルのNATO本部のロビーで販売されました。

ヒューズ・ウィルソンも気を遣ったらしくイラストの下の部分にわざわざ「全てのNATOメンバーにユーモアを込めて捧げる」と書き加えました。1989年に開催された会議ではNATO公式夕食会のテーブルマットとして使用されたのですが、一人の米軍将校が不快感を示したのに対してNATO事務総長のマンフレッド・ヴェルナーは「風刺画を笑えない者は同盟の良きメンバーにはなれない」と言ってヒューズ・ウィルソンを擁護しました。ヴェルナーはドイツ人だったのでイラストにある"ドイツ人の様にユーモラス"="ドイツ人はユーモアのセンスに欠けている"という固定観念の誤りを暴く事になりました。

マンフレッド・ヴェルナー

ヒューズ・ウィルソンは1991年に当時の欧州連合加盟12カ国全てを風刺した別のカード"The Perfect European Should Be..."を作成します。これはマーストリヒト条約が1992年に調印される事を踏まえたもので観光客の土産として人気になりました。ベルギー、ドイツ、ポルトガル、イタリア、オランダ、ギリシャ、ルクセンブルクとデンマークはNATO版を再利用したのですが、英国とフランスは内容を変更し、スペインとアイルランドはNATO版のフランスとノルウェーを転用しています。

1995年にオーストリア、スウェーデン、フィンランドがEUに加盟した際には追加版を作成するのですがその後どんどん加盟国が増えたのでヒューズ・ウィルソンは更新を諦めたようでこの1995年版が"The Perfect European Should Be..."の最後のバージョンとなっています。

さてここからは国毎に内容を見て行きたいと思います。

まずは私が1991~1995年に駐在したドイツです。ドイツはNATO版もEU版も同じで"ドイツ人の様にユーモラス"となっています。

"ドイツ人はユーモアのセンスに欠けている"と皮肉っている訳ですが、NATO版に対するドイツ人NATO事務総長の反応についてお話しした通りこの点については私はあまり同意出来ません。私は欧米人と会話している時、会話に参加している全員が常にジョークを言う機会を窺っている様に感じていました。これはビジネスの交渉でも世間話でも同じで、ドイツ人も例外ではありませんでした。なので私も頑張ってジョークを言う事が習慣になりました。

この辺りの感じは関西人が常に話にオチを求めるのと似ているかもしれません。以前の投稿"世界3大商人(華僑・印僑・ユダヤ人)とのビジネスは大変だけど面白い"で、「関西人こそ世界に通用するグローバル人材」とお話ししましたが、この会話のセンスもグローバル人材のポイントの一つだと思います。

次は英国です。私は英国に駐在した事は無いのですが勤務していた会社の欧州HQsがロンドンにあった関係で、ドイツとロシアの駐在期間計10年の間、毎年2~3回ロンドンに出張した他、モスクワ駐在員の保養休暇先として英国が指定されていた為、保養休暇の都度英国を訪れていた事もありこれまで駐在したドイツ・インド・シンガポール・フィリピン・ロシアを除くと英国は私にとって最も近しい国です。

NATO版では"英国人の様に率直"となっており英国人の回りくどさを皮肉っています。

英国人にとっては文章中の単語の数を増やす程に表現が礼儀正しくなり、自身の教養を示す事にもなるようです。欧州HQsに勤務していた英国人のカンパニー・セクレタリーはオックスフォード大学出身のインテリだったのですが、「文章が回りくどくて何を言いたいのかさっぱり分らない」と日本人及び英国以外のローカル社員から大変不評でした。本人は自分の知識と教養をひけらかしているつもりだったのでしょうが私達(日本人&大陸側欧州人)にとっては、英語は単なる共通のコミュニケーション・ツールなので判り易さが最も重要なのです。

同じ英語圏でも米国は移民の国なので単刀直入に表現する事が徹底されているようです。欧州HQsに勤務していた別の英国人は上流階級の出身でサッチャー首相の様な鼻にかかった発音の英語を話す女性だったのですが、旅行でロサンゼルスを訪れた時にレストランでヒスパニック系のウエイトレスに話しかけても全く通じず、"Can you speak English?"と訊かれてブチ切れて"Of course! I'm English!"と応えたと言っていました。

私が駐在したインド・シンガポール・フィリピンは法律も英語で書かれており、英語は彼らの母語の一つと言っても良いと思うのですが、彼らの使う英語は英国人のそれとは明らかに違います。

EU版では英国は"英国人の様に料理が上手"と料理の不味さを皮肉られています。

英国には「紳士というものは不平を言わず粗食に耐え、それでもなお強く生きなければならない」という考え方があり、それが食への関心の低さとなっているようです。父親の仕事の関係で幼少期にロンドンに住んで現地の小学校に通った私の知人(日本人)は、「給食があまりに不味くてトラウマになっている」と言っていました。なので以前は"英国で美味しいレストランは中華とインドだけ"と言うのが通説でしたがEU統合後は東欧からの移民の増加でイギリス料理も相当改善しました。

次はオランダです。オランダはNATO版もEU版も同じで"オランダ人の様に気前が良い"とケチを皮肉られています。

私が住んでいたデュッセルドルフはオランダ国境から60kmの距離だったのでアウトバーンを走っていると多くのオランダナンバーの車を見ました。以前の動画"ドイツでの車の運転"でお話ししましたが、オランダ人はケチなのでガソリンの消費を抑える為にあまりアクセルを踏み込みません。前方の車を追い越す場合でもアクセルを踏み込んで一気に追い越す事はせず、ゆっくりと時間をかけて追い越します。またオランダ人は旅行に際してもホテル代を節約する為にキャンピングカーで出かける事が多いので、夏休みシーズンになるとアウトバーンにはのろのろ走るオランダナンバーのキャンピングカーが多く見られるようになります。

オランダ人にとってはケチな事は誇りであるようです。英語で割り勘の事を"Dutch account"割り勘にする事を"go Dutch"と言います。オランダ人の前でこのような言い方をすると気を悪くするかと思ったのですが、彼等自身英語で話す時に割り勘の事を"Dutch account"と言っていました。

フランスはNATO版では"フランス人の様に謙虚"と皮肉られています。

米中対立に関するマクロン大統領の動きや発言を見ると確かに謙虚とは程遠いとは思いますね。

EU版ではフランス人の乱暴な運転を皮肉っています。

フランス人の車の運転についても以前の投稿"ドイツでの車の運転"で触れましたが、フランス人は「車線が無いと走れない」と言ってドイツ人をバカにします。一方ドイツ人はフランス人の事を「車線が有ると走れない」といってバカにします。

私の知人(日本人)はドイツからパリに車で行って凱旋門の周りを回っている時に、外側に出られなくなってフランス人の知り合いを呼んで助けて貰ったそうです。凱旋門の周りは12本の通りが放射状に混じりあったラウンドアバウトになっています。反時計回りで車が7台くらい横に並べるほど広い通りなのですが車線はありません。

ラウンドアバウトは進入が優先です。また常に右側の車両が優先になるので右の車にどんどん道を譲っていると凱旋門のある真ん中の部分に一番近いところまで来てしまい永久に外側の道に出られなくなってしまう訳です。私の知人は凱旋門の横に車を停めて、助けが来るのを待ったそうです。

さて今回の欧州エスニックジョークのお話はここまでです。楽しんで頂けたでしょうか。今回触れなかった国の中にも感情の起伏が激しいイタリア人を皮肉って"イタリア人の様に落ち着いて"とか休暇を取りまくっているベルギー人を皮肉って"ベルギー人の様に常に対応可能"なども分らなくもないのですが、残念ながら具体例を思い出せなかったので今回はスキップしました。


それにつけても感心するのはこういう風刺画の土産を売っていてもEUのどこからも抗議も苦情も来ない事です。欧州の人達は自国の国民性をポジティブな面からもネガティブな面からも受け入れ、お互いの多様性を認めながら欧州共同体を築いているのだと思います。仮に「中国人の様に○○で、韓国人の様に○○で、日本人のように英語が上手く・・・」といった様な"完璧なアジア人とは・・・""The Perfect Asian Should Be..."を作ったとしたらどうなるでしょう。いろんなところから抗議が殺到するような気もしますね。それではまた。

本稿の関連動画を以下にアップしています。良ければご参照下さい。

https://youtu.be/I0X4eapagis

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ドイツ、インド、シンガポール、フィリピン、ロシアに、計17年駐在していました。今は引退生活を楽しんでいます。

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