ロシア人の芸術性はすごい!ー 文学、バレエ、クラシック音楽、映画、演劇 ー

26/11/2021

ロシア

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今回は、私がモスクワで暮らしていた時に感じた、ロシア人の芸術性の高さについて、お話ししたいと思います。

本稿の関連動画を以下にアップしています。良ければご参照下さい。

https://youtu.be/8jkaAgKZR8Q

ボリショイ劇場

ソ連時代の滅茶苦茶な経済運営、1991年のソ連崩壊とそれに続く混乱、その後のプーチンの独裁などから、私は漠然と"ロシアは遅れた国"というイメージを持っていました。2008年にモスクワに赴任して判ったのは、政治経済のレベルと文化のレベルには連関が無い、という事です。

ロシアを良く知る人達には"何を今更"という感じでしょうが、文学、バレエ、クラシック音楽、演劇などの世界で、ロシアは常にトップを走り続けており、ボリショイ・バレエ・アカデミーやモスクワ音楽院には、過去から日本人を含む多くの留学生が在籍しています。

モスクワ音楽院(正面の像はチャイコフスキー)

今は状況が改善していますが、生活条件が相当厳しかったソ連崩壊前後の時期でも、多くの若者が日本から留学していたのは、ボリショイ・バレエ・アカデミーやモスクワ音楽院のレベルが高い事の証でしょう。

モスクワの街中では、そこここでレベルの高いクラシックのストリートミュージシャンが見られました。

モスクワのストリートミュージシャン

ソ連時代の映画は「2001年宇宙の旅」と並び称される「惑星ソラリス」などの名作を残しています。

ちなみに「惑星ソラリス」の中では、未来都市の風景として東京の首都高速道路のカットが使われています。

以前の投稿「ソ連時代の一般的なロシア人の暮らし」で触れたように、ソ連映画「モスクワは涙を信じない」は1980年度アカデミー外国語映画賞を受賞しました。

マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンが主演した名作映画「ひまわり」も、イタリア・フランス・ソ連・米国の合作映画でした。

マストロヤンニ演ずる主人公がソ連戦線で凍死しかけていたのを助けて、その後結婚するマーシャを演じていたのは、ロシア人女優のリュドミラ・サベーリエワです。

リュドミラ・サベーリエワ演ずるマーシャ

ソフィア・ローレンが帰ってこないマストロヤンニを探して、モスクワの街を彷徨うシーンは、とても印象的です。

このような数々の名作映画を生み出す背景には、ロシア人の映画好きがあるようです。私がモスクワで住んでいた家の近所のシネマコンプレックスでは、時々ロシア語字幕の日本映画を上映していました。

近所にあったシネマコンプレックス

私はここで本木雅弘主演の「おくりびと」と村上春樹原作の「ノルウェイの森」を見ました。

「ノルウェイの森」の主演は松山ケンイチ、直子役は菊地凛子、緑役は水原希子ですね。私以外の観客は、全てロシア人でした。市内の映画館何か所かで同時上映していました。

ロシアで人気の日本人映画監督は、黒澤明と北野武です。

モスクワ市内のDVDショップでは、北野武監督作品のDVDボックスを山積みにして売っていました。

また、パナソニックは赤の広場の横に北野武を起用した巨大看板を出しました。

ロシア人の多くは、北野武監督がビートたけしという芸名でコメディアンをやっている事は知らないでしょう。

2013年モスクワ国際映画祭では、真木よう子主演の「さよなら渓谷」を見ました。その時「さよなら渓谷」は審査員特別賞を受賞しました。

モスクワ国際映画祭は、3大映画祭(カンヌ、ベルリン、ベネチア)に次ぐ世界的な映画祭の一つとされています。

演劇の世界では、俳優兼演出家であったコンスタンチン・スタニスラフスキーが提唱した演技理論であるスタニスラフスキー・システム(Stanislavski System)が、80年以上の時を経て、未だに多くの俳優に影響を与え続けています。広瀬すずが主演したNHKの朝ドラ「なつぞら」の中で、主人公なつが演劇部に入るきっかけとなる、同級生から手渡された1冊の本「俳優修業」の著者が、スタニスラフスキーです。

スタニスラフスキーは1897年にモスクワ芸術座を、ネミロヴィチ=ダンチェンコとともに創設します。

スタニスラフスキー(左)とダンチェンコ(右)

モスクワ芸術座

モスクワ芸術座は演劇を上演するのですが、それとは別に、この両名の名を冠したスタニスラフスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場がボリショイ劇場から北500mにあり、そこではバレエとオペラを上演しています。この劇場はスタニスラフスキーの演劇理論を実践していて、登場人物の心理をわかりやすく示すことを重要視した演出だそうです。

スタニスラフスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場

さて、ここまでロシアのバレエ、クラシック音楽、映画、演劇などについてお話ししましたが、ここからはロシアの文学についてお話ししたいと思います。ロシア人の芸術性について論ずるとすれば、やっぱり文学が最重要ですね。

モスクワにあるレーニン図書館(正式名称はロシア国立図書館)は、ロシア国内最大であるとともに、世界でも最大級です。その正面には、ドストエフスキーの像があります。少なくともロシア人にとっては、最高のロシア文学者はドストエフスキーという事なのかもしれません。

レーニン図書館

ドストエフスキーが青年期から晩年まで過ごしたサンクト・ペテルブルクでは、ドストエフスキー博物館の他、「罪と罰」に登場する場所などが観光名所になっています。

モスクワ市内で目立つ、もう一人のロシア文学者は、プーシキンです。何故目立つかと言うと、プーシキンの名を冠した美術館とカフェが有名だからです。

プーシキン美術館で私が度々訪れたのは、19〜20世紀ヨーロッパ・アメリカ美術ギャラリーと呼ばれる別館です。この別館には、ゴッホ、ゴーギャン、マティス、ピカソなどの印象派の作品が収蔵されています。これらのコレクションは、サンクト・ペテルブルクのエルミタージュ美術館と、モスクワのプーシキン美術館に分けて収蔵されているものです。

プーシキン美術館別館

もう一つは、カフェ・プーシキンです。カフェと言っても、本格的なフレンチロシアンスタイル料理のレストランです。1階のインテリアは薬局、2階は図書館をコンセプトにしていて、1階は比較的カジュアル、2階は高級感があります。

カフェ・プーシキン

一階

二階

交差点の反対側のプーシキン広場には、プーシキンの像があります。

カフェ・プーシキンはプーシキンの生誕200年の年(1999年)に、フランスの歌手ジルベール・ベコーの「ナタリー」の歌詞に出てくる想像上のカフェを、現実に作ってしまったものだそうです。

その他、トルストイ、チェーホフ、ゴーゴリ、ツルゲーネフなど、偉大なロシア文学者は、枚挙にいとまがありません。

私にとって印象的だったのは、平均的なロシア人の文学好きです。モスクワの地下鉄に乗ると、いつも大半の乗客が本を読んでいました。私はモスクワで、運転手付きの社有車を使っていたのですが、私が出先で用事をしている間、運転手はいつも車の中で本を読みながら待っていました。フィリピンに駐在していた時の運転手は、待っている時はいつも車の中で熟睡していたのですが。

モスクワで私の部下だったロシア人マネージャーは、村上春樹(ロシア語訳)を愛読していると言っていました。私は、身近な外国人から日本の最近の小説を読んでいると聞いたのが初めてだったので、少々驚きました。その後、モスクワ市内の本屋を覘いてみたのですが、日本文学のコーナーは大変充実しており、村上春樹、村上龍、吉本ばなななどのロシア語訳の著作が沢山並んでいました。私は記念に、村上春樹の「羊をめぐる冒険」と「ダンス・ダンス・ダンス」を買いました。

「羊をめぐる冒険」(左)と「ダンス・ダンス・ダンス」(右)

以前の投稿「現在のロシアの製造業とソ連時代の計画経済」で説明したように、ロシア人は工場で工業製品を製造するのは苦手です。ところが一方で、世界で初めて有人宇宙飛行を成功させるなど、進んだ科学技術を持っています。

日系企業の工場の技術者(日本人)に聞いた話ですが、宇宙ロケットのような一点物の高度な工業製品を作るのは、芸術作品を作るのと似たところがある由です。一方で、工場の製造ラインで均一な品質の製品を、コストを抑えて効率よく大量に作るのは、芸術作品の制作とは真逆の作業なので、ロシア人は苦手なのだろう、という事でした。

余談ですが、ガガーリンは"人類初の宇宙飛行士"ではなく、"人類で初めて生きて帰還した宇宙飛行士"だという話です。

モスクワ市内のガガーリン像

さて、ロシア人の芸術性に関する話はここまでです。今回はロシアの文化的な側面についてお話ししましたが、機会を見て、ドイツ及びその他の欧州の国々についても、同様なお話をしたいと思います。それではまた。

本稿の関連動画を以下にアップしています。良ければご参照下さい。

https://youtu.be/8jkaAgKZR8Q

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ドイツ、インド、シンガポール、フィリピン、ロシアに、計17年駐在していました。今は引退生活を楽しんでいます。

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