ドイツでの車の運転 ー 世界で唯一の速度無制限高速道路 ー

15/11/2021

ドイツ

t f B! P L

今回は、私が1991年から4年間暮らしていたドイツでの車の運転について、お話ししたいと思います。

本稿の関連動画を以下にアップしています。良ければご参照下さい。

https://youtu.be/YtZ1ph40vrU

私は、会社からカンパニーカーとしてBMW520iの貸与を受け、業務と通勤の他、私用にも使っていました。

以前の投稿「ソ連崩壊の瞬間」でお話しした通り、私はソ連・東欧地域担当の増員としてドイツに赴任したので、会社は新たにカンパニーカーを購入する必要がありました。カンパニーカー購入の審査をする総務の担当者は「VWゴルフで良いのでは?」と言ったのですが、私は「ドイツではアウトバーンで長距離を走るので、安全の為に一定以上の大きさの車が必要」と、無茶苦茶な理由をこじつけて、BMW5シリーズの承認を取り付けました。

本当は、ドイツ車は大衆車でもアウトバーンの長時間高速巡行に耐えられるように造られているので、全く問題ありません。

BMW525を希望していたのですが、総務の担当者が「500万円を超える場合は取締役会の承認が必要です」というので、泣く泣く予算の関係で520で手を打ちました。

520の2000cc150馬力直列6気筒エンジンは、1.5tの車体には若干非力でした。アウトバーンは大半の部分で制限速度が無いので、目一杯スピードを出してみたのですが、平地では190km/hが限界で、下り坂でようやく210km/hに達しました。スピードメーターには240km/hまで目盛りがあったのですが。ちなみに、制限速度が無い自動車用公道があるのは、全世界でドイツだけだそうです。

ドイツでは、ベンツ・BMW・アウディの3社は紳士協定で250Km/hでリミッターが利くようになっています。 どのメーカーも4000cc以上の排気量があれば、物理的にそれ以上の速度は出るのですが、安全運転の為に、この3社はこの速度でリミッターを設定しています。ポルシェは紳士協定に参加していないので、リミッターはありません。また、ベンツはオプションで250Km/hのリミッターを解除出来るので、SLなどはリミッター無しも多いようです。

アウトバーンの追い越し車線を走る時は、後方にも注意が必要です。自分が180km/hで走っていて、280km/hのポルシェまたはベンツSLが後ろから来ると、停まっている車に100km/hで近づくのと同じ状況になります。なのでそういう時は、素早く走行車線に移動して、やり過ごさなければなりません。

ベンツSL

ポルシェカレラ911

ドイツでは絶対に、追い越し車線の車を走行車線側から追い越す事はしません。どんなに走行車線側が空いていようとも、追い越し車線を走る車の後ろにピッタリくっついて、パッシングを浴びせて走行車線への移動を促します。なので追い越し車線を走る時には、後方にも注意する必要があるのです。

私はアウトバーンは、だいたいいつも160km/hで走行車線を走っていました。走行車線にはバスやトラックなど、制限速度のある車が走っており、それらをいちいち追い越さなくてはならないので、面倒なのですが、160km/hで追い越し車線を走ると、頻繁に道を譲らなければならなくなるので、鬱陶しいのです。

当時(1991年)のイメージが、BMWは若者向き、ベンツはオジサン向き、という感じでした。また当時は今と違って、アウディはベンツやBMWより格下の感じでした。なのでBMWを希望したのです。

ドイツに行って判ったのは、お洒落なドイツ人はドイツ車に乗らない、という事でした。スウェーデンのサーブやフランスのプジョー、イタリアのアルファロメオ、英国のジャガーなどに乗っているイメージです。

サーブ

プジョー

私が住んでいたヴォーヌング(日本のマンションと同じ意味です)は、比較的裕福で知的なドイツ人が多かったようで、地下駐車場にはドイツ車以外の車が多く停まっていました。サーブ、プジョー、アルファロメオ、ジャガーなどに混じって停まっている、米国製のホンダシビッククーペを見た時は、嬉しくなりました。"ホンダシビッククーペはお洒落"、と認識されていたのだと思います。

米国製ホンダシビッククーペ

ホンダはフランクフルト郊外にR&Dセンターを持っており、その関係で、フランクフルト近郊のアウトバーンでは時々、ものすごい勢いで飛ばしているホンダ車が見られる、という事でした。

Honda R&D Europe (Deutschland) GmbH

ドイツでは車の装備品は、購入者が一つ一つ選ぶ仕組みになっています。日本だと「標準装備」がある程度あって、オプションを選ぶ、という形と思いますが、ドイツでは、ヒーターやカーラジオを付けるかどうかまで、購入者が決める事になります。メーカーは受注してから車を製造するので、その様な事が可能になります。その為、発注してから納車まで、ある程度時間が掛かります。

パワーウインドウを付けるかどうかも選べたのですが、BMWは電気系統が弱いのでパワーウインドウも故障しやすい、という人がいたので、その勧めに従って、パワーウインドウは付けずに、手回しウインドウにしました。ちゃちな感じの薄いプラスチック製の手回しハンドルが付いていたのですが、駐車場の入り口で操作する為に窓を開ける際に、手回しハンドルが折れてしまい、ディーラーに修理に出す羽目になりました。

駐車場入り口 黒と黄の縞のポールにカギをさしてシャッターを開ける

私が住んでいたデュッセルドルフは、ドイツの西の端に位置している為、オランダ、ベルギーには日帰りで行く事が可能でした。オランダ国境まで60kmしかありません。アウトバーンを走って国境を超えるのですが、オランダに入ると制限速度120km/hまたは130km/hになります。

注)オランダ政府は2019年に気候変動対策の一環として高速道路を日中に走行する際の最高速度を100キロに引き下げました。

オランダ人はケチなので、ガソリンの消費を抑える為に、あまりアクセルを踏み込みません。前方の車を追い越す場合でも、アクセルを踏み込んで一気に追い越す事はせず、ゆっくりと時間をかけて追い越します。

またオランダ人は旅行に際しても、ホテル代を節約する為にキャンピングカーで出かける事が多いので、夏休みシーズンになるとアウトバーンには、のろのろ走るオランダナンバーのキャンピングカーが、多く見られるようになります。

アウトバーンを走るオランダナンバーのキャンピングトレーラー

オランダ人にとっては、ケチな事は誇りであるようです。英語で割り勘の事を"Dutch account"、割り勘にする事を"go Dutch"と言います。オランダ人の前でこのような言い方をすると気を悪くするかと思ったのですが、彼等自身英語で話す時に、割り勘の事を"Dutch account"と言っていました。

ドイツのアウトバーンもオランダの高速道路も、道路照明は全く無く、夜になると真っ暗になります。ヨーロッパは街と街の間には、建物が全く無いエリア(畑、牧草地、森林など)が広がっているのが普通なので、そういう場所に来ると、車の照明以外は何も見えなくなります。ところがベルギーだけは、明るい道路照明が設置されています。

道路照明が設置されたベルギーの高速道路

この道路照明設備は、オランダのフィリップスの寄付により設置されたそうです。ベルギーは道路照明を設置した事により、その後ずっとフィリップスから電球や蛍光灯を買わなければなりません。オランダとドイツはそれが分かっていてフィリップスの寄付の申し出を断ったのですが、ベルギーだけはフィリップスの口車に乗って道路照明を設置してしまったという事です。

デュッセルドルフからパリまでは、500kmです。流石に日帰りは無理ですが、2泊3日で時々出かけました。但しパリ市内の運転は、慣れていないと難しいので、いつもまっすぐにヴァンドーム広場の地下駐車場に行き、そこに車を停めると、後は地下鉄などを使って移動していました。

ヴァンドーム広場

ちなみにヴァンドーム広場に面して建っているホテル・リッツは、映画「お洒落泥棒」の舞台になったところです。ピーター・オトゥールの運転するジャガーEタイプの助手席にオードリー・ヘップバーンが乗って、ヴァンドーム広場を走るシーンが出てきます。

私の知人(日本人)は、ドイツからパリに車で行って、凱旋門の周りをまわっている時に、外側に出られなくなって、フランス人の知り合いを呼んで助けて貰ったそうです。凱旋門の周りは12本の通りが放射状に混じりあったラウンドアバウトになっています。反時計回りで、車が7台くらい横に並べるほど広い通りなのですが、車線はありません。

凱旋門とラウンドアバウト

ラウンドアバウトは進入が優先です。また常に右側の車両が優先になるので、右の車にどんどん道を譲っていると、凱旋門のある真ん中の部分に一番近いところまで来てしまい、永久に外側の道に出られなくなってしまう訳です。私の知人は凱旋門の横に車を停めて、助けが来るのを待ったそうです。

さて、私のドイツ駐在時代の車の運転に関する話はここまでです。

ドイツの運転免許証には有効期限が無いので、私がドイツで取得した免許は未だに有効です。そのためヨーロッパに旅行や出張で行ってレンタカーを運転する際にも、国際運転免許証を取得しなくて済むので大変便利です。

ドイツの運転免許証

ドイツでの運転といえばアウトバーンですが、この高規格高速道路網を、第2次大戦前から作っていたドイツ人の先見性には、全く恐れ入ります。このアウトバーンの存在が、ドイツの自動車メーカーの発展に資する事になったのは間違いないと思います。

さて、私がドイツに駐在していた当時は、まだカーナビが無かったので、地図を見ながら苦労して長距離ドライブをしたのですが、モスクワに駐在していた時は、ガーミン日本語版を手に入れて、休暇時に英国、フランス、イタリア、スペインなどをレンタカーで回りました。そのあたりについては、回を改めてお話ししたいと思います。それではまた。

本稿の関連動画を以下にアップしています。良ければご参照下さい。

https://youtu.be/YtZ1ph40vrU

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ドイツ、インド、シンガポール、フィリピン、ロシアに、計17年駐在していました。今は引退生活を楽しんでいます。

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